理学療法士の自分が、家族が脳卒中になってしまった場合、脳卒中の保険外・自費リハビリを勧めるか?③

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


 前々回から、保険外・自費での脳卒中のリハビリに関して書いています。  


前提となる知識を整理するために、対象、費用に関して既に書きました。 

前回は費用に関して書きました。  


脳卒中に対する自費リハビリで有名な『脳梗塞リハビリセンター』の2か月で30万円は、そこまで法外な値段ではないと私は考えました。 


自費リハの良い点として、 

①困ってる患者さんを助けることにもなる 


②制度上の穴になってしまっていて、今までリハビリを受けることが出来なかった方がリハビリを受けることが出来る 


③リハ専門職の雇用を大きくした(今まではリハ専門職はこの様な方々に対して、サービスを提供できなかった。) 


という様な色々な価値を自費リハビリはもたらしています。

でも、モヤモヤします。 なぜこのように感じるかを考えてみました。 


複数の観点があります。  

前提として、前にも書きましたが、お金の使い方は個人の自由です。ただ、リハビリサービスを受ける方は、正しい知識の上で判断してもらいたいという思いがあります。 正しい知識を持ったうえでならば、仮に効果のなさそうなものであっても、「それにお金を使いたい」と考える方を止めたい気持ちは全くありません。 


自費でのリハの適応になる人には届いて欲しい一方で、必ずしも適応がない人に対して、マーケティングのうまさによって、届かないで欲しいとも思います。 


誰かの困り事を解決することは非常に良いことです。 しかし、本当は効果の乏しいサービスが、患者さんの困り事を解決出来るかのように謳われて、それにお金を無駄に使ってしまうのはとても残念なことです。 


社会、患者さんに貢献しているように謳って、実は困っている人からさらにお金を吸い取るビジネスになっていないかを慎重に検証する必要があります。  


これを考える上で、下記の様な疑問を考える必要があります。 

『発症後180日が経過してしまった脳卒中患者さんへのリハビリは国民健康保険のサポートの元提供されるのが望ましいのか?』です。  


私は必ずしもそうは思いません。 その理由を書いていきます。  


先進国共通の悩みとして、少子高齢化が挙げられます(例外はアメリカ位でしょうか。。。)。 

医療費に限りがあるから、困っている人全員に、十分なケアを行き渡らせることは残念ながらできません。 消費税50パーセントでもオーケーとかなら話は別だと思いますが、 

『税金は上げるな、医療は充実させろ、足りない分は医療者がハードワークしてカバーして。』

 というのは難しいです。すでに日本の医師、看護師などは他の先進国と比較して、給料、勤務時間でかなり悪い環境でハードワークしています。 


色々な病気で困っている方がいます。 その全部に関して、

『手厚いサポートを税金を用いてやった方がいいか?』

 という問いの設定の仕方では全ての方に対して『やった方がいい』という答えになってしまいます。 


・困っているお子さんに、適切な手厚い医療が届かない→届けた方が良い 


・困っている高齢者に手厚い医療が届かない→届けた方が良い 



『手厚くした方が良いか?』という質問では全てにおいて手厚くした方が良いに決まっています。 医療費、人材に制限がある状況では、 

『この課題は、他と比較して、より優先すべきか??』 

という形で問いを立てないと解決に繋がりません。 医療費は、国民から広く集めた税金から捻出されるため、「ある程度、社会への有用性が高いものに優先的に分配される」というのは仕方がないことであると私は考えます。 


『発症180日以降も税金からのサポートの元、リハビリを提供することは他の課題と比較して重要か?』

この様に問いを変えると少し景色が変わります。

 例えば、発症180日以降のリハビリで復職に繋がる確率が上がるならば、医療費の一部を国から負担してもらうのは合理的であると思います。  

復職できることで、将来の税収が上がるならば、国民すべてにとって有益です。 


引用させて頂いた記事の中で、お客さんがこの様に言っています。


 お客さん「自費だろうと何だろうと、1日でも早く治るんだったらそこに行きたいっていう気持ちになってたからね」 

また、運営会社の会長さんは、
会長さん「必ずしも富裕層だけのものじゃないなと思っています。というのもやはり40代、50代で脳卒中になって、例えば今のプランを1回もしくは2回やることによって復職できれば、結果生涯賃金がもしかしたら上がるかも知れないし。そういう意味で言うと、やはり40代、50代くらいまでの方は必然性があるので通ってきている」


 何もって「治った」のかは、難しい所ではありますが、180日以降も自費でリハビリを受け続けることで、「治る」確率が高まるのか?  


180日以降も自費でリハビリを受け続けることで、復職の確率は高まるのか? 


ここが検証されないと、「社会に役立つ画期的なサービス」なのか、「困っている人に付け込んでさらに搾取するビジネス」なのかの評価が出来ません。  


下の図にイメージを書いてみました。 


緑の線が『発症180日以降にリハビリを受けなかった場合の体の機能の推移』とします(わかりやすさを重視して単純に書いています)。 

自費リハビリを1セッション(60日)受けた後、 


①赤線の様に、ドンドン機能が伸びていき、自費リハを受けなかった場合との差が広がり続けるのか? 


②青線の様に、リハビリを受けたことで、少し機能が上がり、その差がずっと継続していくのか?  


③黄線の様に、リハを受けた時期に一旦向上して、その後は、元に戻ってしまうのか?  


というのが検証されていない段階で、素晴らしいサービスのように言われること、またその検証が行われている様子が見えないことに私はモヤモヤを覚えます。 


長くなりましたので、次回に続きます。 


今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 


次回へのリンク








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