理学療法士の自分が、家族が脳卒中になってしまった場合、脳卒中の保険外・自費リハビリを勧めるか?⑤

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


数回に渡って、保険外・自費での脳卒中のリハビリに関して書いています。 前回は、少し暗い内容になってしまいました。 


しかし、『重症の方は、リハの必要なし。復職も無理、家で寝ていて下さい』というものでは全くありません。 


重症の方が発症後180日が経過してからも、リハビリをすることで体の機能の改善が期待できます。 

ただ、注意して頂きたいのは、

『脳卒中のリハビリは、ある程度まではリハビリ量によって効果が決まる』

という点です。 また、ここで言う「ある程度」は、一般的に考えられているよりも遥かに大きい割合です。 


脳卒中のリハビリの効果を非常にシンプルに説明すると 

(行ったリハビリの量)×(動作のスキルの向上)=リハビリの効果 です。  


ただ、この量と質の重みは1対1ではなく、恐らく5対1とか6対1でリハビリの『量』の方が重要です。 もしも、ご自身の体の機能を最大に回復したい場合は、退院した後も、もっともっと沢山のリハビリの『量』を高い『強度』でこなす必要があります。退院後も、体を動かさなければ、筋力や持久力は低下していくからです。


なぜ、この様なことを書くかと言いますと・・・、 

家に帰ってからもリハビリを受けている患者さんのほとんどすべての方が、運動不足(廃用という風にいいます)がしっかりと改善できていないからです。

この様な、発症後時間がたった患者さんの運動不足に関する問題は多く報告されています。

自費でのリハビリも良いですが、ご本人、家族と協力して、あまりコストを掛けずにこの運動不足を潰すことが一番大切であると思います。


私は、発症後すぐの患者さんが運ばれてくる急性期病院での職務経験が長く(8~9年)、患者さんが退院した後の訪問リハビリの経験は、1年程度です。 

当時勤めていた会社のサポートもあり、先発の非常に成功している訪問看護ステーションのリハビリも同行・見学させて頂いたりしました。 それらの経験で、見させて頂いた100~200人の利用者様(元患者様)のうち、十分な活動量が確保されて、その方の病気の状態から想定される身体機能をフルに獲得できていたのは、恐らく2~5人程度です。 


その方も、ぎりぎりで介護保険を使うことのできる若い方で、かつ骨折の様な整形外科的な疾患で、怪我をする前の活動量も大きい方でした。  


入院直後は、症状が辛かったり、病気の管理が優先されたりします。この寝たきりに近い期間があるため、体の機能は非常に良くて維持、普通は低下します。 特に高齢の方の場合は、この体の機能の低下を充分に取り戻すのは簡単ではありません。退院するまでの間に、十分に取り戻せないこともあり得ます。  


引用した記事の中でもそうですが、 『この様なことを意識することで歩きやすくなる』のような、スキルに注目が集まりがちです。  


リハ専門職は技術職でもあります。ですので、スキルに注目したい気持ちは、理解できます。私達の職種にとっては、「リハビリは『量』より『質』です。その『質』を高めるには私達の存在が不可欠です。」というロジックは、耳触りが良いです。 


ただ、この様なことを意識すれば動きやすくなるというのは、一回言われて確実に体に染み込むものではありません。また環境が変われば、そんな細かいことまで意識することは難しいです。 


少し想像して頂ければわかると思いますが、私たちが生活の中で歩く際には、何か別のことを考えながら、何かを持ち、平らでない地面を、時間的な制約の中で歩いている。という場面がほとんどです。


病気のない方であれば8個ほどの課題を同時にこなしながら歩くことが出来るようです。 

この様に、実際の場面ではたくさんの別のことを求められるのに、リハビリで歩く時間だけ、『踵から地面に付くように意識する』というようなアドバイスを意識することはあまり役に立ちません。


体の機能を最大に回復させるためには、運動不足による筋力や体力の低下(廃用)を十分に潰す方が、インパクトが遥かに大きいです。 


長くなりましたので次回に続きます。 

次回以降で、『量』を意識したリハビリの内容であったり、復職に関しての私見を書きます。 



今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 








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