こんばんは。夢のまち訪問看護リハビリステーション 都賀に所属している理学療法士の倉形です。
初めて見て頂く方はこちらをどうぞ。こんなことを考えて日々の仕事をしています。
以下に書くことは、私の所属先などとは一切関係のない私の私見であり、文責は全て倉形個人にあります。
今日は、
③歴史上、同じような勘違いをたくさんしてきているから
歴史上、大規模な観察研究によって支持されていた結論が、質の高い臨床試験によってひっくり返るということがたくさん起きました。数万人規模の観察を行っても、間違った結論を下してしまうことがあるのに、一人のリハ職種が経験できる数百から1000~2000人程度の臨床経験で信頼のできる結論を引き出せるほど我々は賢くないと思います。当たり前ですが我々は神様じゃないので。『臨床の神様』みたいなポジショニングをとっている人はいますが・・・・。
について書きます。
観察研究の結果が、質の高い臨床研究によってひっくり返った例として、『ホルモン補充療法』があります。この治療の根底にあるメカニズムは簡単に言うと・・・
① 女性は、男性と比較して血管の老化がゆっくり進む
↓
② 閉経後、女性ホルモンの分泌が減り、この年代から血管の老化に伴う疾患
(心臓の病気など)が増える
↓
③ 女性ホルモンを補充する。
体に良さそうなものの分泌が減るので補充する。理にかなった治療法に見えます。
結果は・・・
① 実際に大規模な観察研究では繰り返し、心臓病などのイベントの抑制が報告されました。
(Stampfer MJ, Colditz GA. Estrogen replacement therapy and coronary heart disease: a quantitative assessment of the epidemiologic evidence. Prev Med. 1991 : 20(1):47-63 )
② しかし、患者をランダムに2グループに分けて、それぞれに本物の薬と偽物の薬を与えると
いう質の高い臨床試験では、心臓病などのイベントは減らせないことがわかりました。
( Hulley S, Grady D, et al. Randomized tral of estrogen plus progestin for secondary prevention of coronary heart disease in postmenopausal women: Heart and Estrogen/ progestin Replacement Study ( HERS ) Research Group. JAMA. 1998; 280 (7): 605-613 )
なぜ、観察研究では、効果があるように見えたのか?カラクリはこうです。もともとホルモン補充療法を受けていた人たちは、健康に対する意識が高く、運動や食事などの生活習慣にも気を使っていたということです。心臓病などのイベントを抑制していたのは、治療効果ではなく、良好な生活習慣によるものだったのです。この例は、よくデザインされた臨床研究が行われなければ、いかにたくさんのデータを集めても間違った結論に陥ることがあるということを私たちに教えてくれます。
『メカニズムとして筋が通っていること』と、『実際に患者さんに対して治療効果があること』の間には非常に深くて大きな溝があります。
4回にもわたって書いてしまいましたが、このテーマに関しては今回で、一旦終わりです。
長々と書いてきてしまいましたが、まとめると・・・、
『私たちは、医療に関しては、サイエンスの力を借りなければ、日々の自分の経験すら正確に解釈することはできません。』
という前提に立って自分の経験と向き合わないと、お客さん(患者さん、利用者さん)に大きな不利益を与えてしまうこともある。ということです。
ですので、サイエンスに関する知識(リテラシー)を身につける必要があります。そうすれば、自身の経験の解釈の仕方も良い方向に変わるし、自己研鑽の一環として、参加するセミナーや、購入する書籍を決める際に、①声の大きい人、②宣伝の上手い人、③経験が長いだけの人、④仲間を作るのが上手い人、⑤それっぽいこと(メカニズムは筋が通っているように聞こえること)を言う人に騙されなくなることが期待できます。
その辺りの話もまたいつか。。
長々とお付き合い頂いてありがとうございました。
理学療法士 倉形裕史
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