『経験による意思決定』の価値は下がってきているし、これからも下がり続けます:大阪市の教育関連のニュース記事から考えたこと③

こんにちは。理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。


 前回の続きです。 この話は今回が最終回です。


前回、前々回でも言いましたが、政策に関して何かを言いたいわけでなく、興味深い題材を見つけたので、自分の考えを整理したいだけです。

経験による意思決定の価値の変化に関して、大阪市の教育関連のニュースを題材に書いています。 


前回までの流れとしては 


大阪市の平均の成績が全国最下位なのを受け、市長が教員への成果主義の導入を検討すると発言          

     ↓

 教育委員会は、難色を示した。


 という議論を紹介した後、

 アメリカで行われた社会実験で『教師へのボーナスによるインセンティブは成績改善につながらない』という結果を紹介しました。


さらに、ここからは推測ですが、市長は自身の経験をもとに、教員への成果主義を導入することで生徒の成績が上がるというロジックを『思いついて』、発言してしまったのではないかと考えました。


どんな天才であっても、実際に検証することなしに、この「思い付き」の実際の効果を判断することはできないと思いますということを書きました。



もし、大阪の教育委員会の方が、


委員会『市長、その試みは以前、アメリカで行われていて、成績向上に効果がないことがわかっています。もしも成績を向上させたければ○○のような方法をとってはいかがでしょうか?この方法の有効性はこの実験で証明されています』と言えたらいいのにと思いました。


そもそも「専門家(エキスパート)」はそのためにいるんじゃないかと、私は思います(;’∀’)。

『意思決定をする権限を持った人に対して、必要かつ大量過ぎないデータを示して、意思決定のサポートをする。』というのがこの様な政治的意思決定をする際に関わるエキスパートの役割であると私は理解しています。


ただ長く携わっただけでは『ベテラン』とは言えると思うんですが『エキスパート』とは言えないんじゃないかと思います。 


で、その上で、市長が反論というか、質問をして、

市長「ちょっと待って、この研究はそのまま日本に当てはめていいの?」とか

「もっとボーナスの額を大幅に上乗せしたらどう?」とか

(個人的には大阪市でクラスを担任している教員に一人当たり1万5千ドル以上のボーナスの上乗せってなかなかできないと思いますが・・・)、

「提案してもらった方法では費用対効果があまりにも悪すぎる」


というような、データを出発点にした議論があって、意思決定をしないと納税者への説明がつかないではないかな?と個人的には思います。 


ニュースに基づく話はとりあえずおしまいです。以下は私見です。 


このように、意思決定における『個人の経験』の価値はドンドン下がってきています。20~30年前の様に「社会変化がゆっくり」かつ「入手できる情報量・質に制限がある」場合は、専門家が有する『経験』に基づく意見は大きな価値がありました。意思決定に関わるような重要なデータは専門家が質・量共に素人を圧倒していて、ほぼ全ての場合において専門家による意思決定の方が優れていました。両方とも『個人の経験』で意思決定をするならば、所有している情報が質・量ともに圧倒的な専門家の方が優れた判断を下せるのは当然です。

ただ、現在は残念ながらそうではありません。


 ちなみに、この話は、『対岸の火事』ではありません。

現在は、医療従事者でなくてもネット上で医学論文を入手して読むことができます。実際、病院で働いていた時に、『この論文、どう思いますか?』と質問してくれた患者さんがいました。ただその時は、残念ながら適切な情報源までたどり着けておらず、科学的に見るとナンセンスな、いわゆる『エキスパートオピニオン』を信じ込んでしまっていらっしゃるようでした。それに関して、自分なりにきちんと説明させて頂きました。 


この経験からもわかることは、現在は非専門家であっても、様々な情報を得られる時代です。 

私たちリハ専門職も襟を正して、最新かつ最良の情報に接し続ける必要があるなと思いました。 


今日も、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。 

 理学療法士 倉形裕史

Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

キャリアゴールは『日本を含む全アジア地域で、全てのリハビリ対象者が適切な価格でエビデンスベースドのリハビリにアクセスできる社会を実現する』ことです。 ゴール達成のために、勉強したことをシェアしたり、同じような活動をしている方とコミュニケーションをとることを目的にサイトを作ってみました。 ゴールやそこまでの道のりが少しでも被る方は、是非一緒に何かやりましょう。

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