こんにちは。理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
前回の続きです。
私の考えている 結論から言いますと、 『温水やホットパックによる加熱は、関節可動域改善に役立たない』です。
補足です。
タイトルに『多分』と入れました。これには理由がありまして、人間の患者さんを対象とした臨床研究が見つけられなかったからです。ですので、もしかしたら、リラックス効果が働いて、一時的に痛みを感じにくくなって強くストレッチをすることができて、可動域が改善するなんてことがあるかもしれません。実際の患者さんを対象とした臨床試験は色んな事が起こりえます。なので、結果がない以上は、『多分ない』ということしかできません。
補足終わり。
前回の論文の話に戻ります。
この論文を少し詳しく読むと・・・・、
対象がラットのしっぽの組織です(ラットはネズミと思って下さい)。
ネズミの「しっぽ」を切り取って、お湯につけながら伸ばすということをやっています。
まず、動物実験を人体に対するリハビリに応用するというのがそもそも論理の飛躍がありますが、今回は、同じ哺乳類同士ということで目をつぶります(ホントはつぶっちゃだめですよ( ゚Д゚))。
前回取り上げたの本の中で、著者の沖田先生は
『45℃という温度まで人体の腱組織を加熱することは、現在リハ室で使われているような機械ではできないし、仮にできたとしても、たんぱく質の変性を引き起こすかもしれない。』と仰っています。(内容はそのままですが、わかりやすい表現に変えています。)
例えばホットパックや温水に手足をつけるような器具は、多くのものが45℃超えた温度に設定されています。温水に手足をつけるタイプのものは火傷をしないように50℃とかはいかないと思います。ホットパックなどは70℃とかになり得ますが、タオルでくるんだりして、直接当たらないようにします。
というような、器具自体が火傷予防のため、温めすぎないように配慮されています。これに加えて、大体実際の場面では温めるのは10分~15分位でしょうか?
もともとの患部の温度にもよるとは思いますが、温まるまでの時間もかかります。
これに加えて、生きた人間では、熱が一か所に留まらないように循環が働きます。循環というのは、血液が体中の血管をめぐることで、熱を全身に分散させるというイメージでよいと思います(足湯に入っていると身体全体がポカポカしてくるのはこのためです)。
ここでまた、先ほどの論文に戻りますと、実験に使っていたのは、切り取ったラットの『しっぽ』です。つまり、生体ではないので、循環は働きません。 循環が働かない状態であれば加温は比較的簡単ですが、循環が働く生体では話は全く変わってしまうと思います。
以上から、おそらくホットパックや温水による加温では私たちの体は45℃程度まで温度上昇できないと思います。
また、もし、仮に深部にある組織を、45℃超える程度まで加温ができたとすると、皮膚などの表面の組織はもっと高温になってしまい、火傷してしまいます。また、腱などの組織もたんぱく質の変性が生じてしまい、加熱前の様な状態に戻らない可能性があります。
以上から、ホットパックや温水などによる温熱療法は、関節可動域制限の改善に役立たないと思います。
上記の論文は、温熱療法の根拠としてリハ専門職が使う教科書にも載っています。
残念ながら、教科書に常に正しいことが書かれているわけではありません。一度立ち止まって、情報の真偽を考えてみる姿勢は必要だと思います。
医療従事者でなかったり、若手のリハ専門職の方で、医療分野の専門的な科学的思考のトレーニングを受けていない場合、どう考えたらいいのかよく分からないかも知れません。
いくつか簡単な考え方があります。
今回の記事から一つ紹介したいのは・・・
『人を対象とした研究で効果が証明されているか?』を確認してください
ということです。
そうしないと、『切り取られた』、『ラットのしっぽ』を使った実験の結果を、患者さん(生きている人間の手足)の治療に応用してしまうことが起こり得ます。
『私たちはお金を出して教科書を買うんだから、内容はキチンと吟味しておいて欲しい』。非常にもっともな意見だと思いますが、「んっ!?( 一一)」と違和感を持ったことを少し調べてみるのも楽しいものですよ(^^♪
今日も、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
理学療法士 倉形裕史
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