脊損患者の歩行再建に関する論文:The New England Journal of Medicineに載っている 4例のケースレポート①

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


先日、Twitterを見ていて、面白そうなタイトルの論文が紹介されていたので読んでみました。 

タイトルは、『Recovery of Over-Ground Walking after Chronic Motor Complete Spinal Cord Injury』です。

脊損患者に対して硬膜外電気刺激と集中的なリハビリを行った報告です。 


ご存知の方も多いと思いますが、The New England Journal of Medicineは、医学雑誌のTop of Topの一つです。ですので、エビデンスレベルの高くないケースレポートでは基本的に掲載できる雑誌ではありません。症例数も4人ですし。。。 


むしろ、症例数が数万とか数十万人クラスの大規模でエビデンスレベルの高いランダマイズドコントロールドトライアル(RCT)などが載ります。 ですがこの研究は、①手法が新しいこと、②今までなかなかブレイクスルーの起きなかった『完全麻痺Complete Spinal Cord Injury』の症例の歩行再建に関して、新しい一歩が示されたので取り上げられたのだと思います(硬膜外電気刺激に関する論文がこれが最初のものではないと思いますが・・・)。


 動物実験レベルでは歩行再建に関しての報告が出ていますが、ヒトを対象とした研究では芳しい結果が得られていませんでした。 


たとえば、下記の様な非常に大きいロボットのサポートを使っての歩行などでした。 


しかもこの様なロボットを使っても、両側のロフストランド杖を併用しても非常にゆっくりなペースでしか歩けないというレベルでした。ちなみにこの機械もトレーニング効果は期待できず、付けた状態でしか歩くことができません。 

もちろんこの機械も素晴らしいイノベーションです。


また、こんな例もあります。残念なことではありますが、PTが経営するものも含めて、根拠の乏しい治療を提供する『保険外』の治療院やクリニックがたくさんあります。そこでは、まだ人類が未到達の治療効果があげられるかのように宣伝しています。 


そうしないと確実に保険診療の医療施設との競争に負けてしまうからです。日本人は、多くても3割負担で医療を受けることができます。しかも一定以上の医療費になるとそこから先は費用が掛からない制度になっています。保険外では同じ治療をしても3倍以上の値段が掛かってしまいますし、上限もありません。そうなると、宣伝に力を入れるしか顧客獲得競争で生き残ることができません。 



ですが、そのようなクリニックでも完全麻痺の脊損(『コンプリートの脊損』という風に言ったりします)の歩行再建が可能であるかのように謳うクリニックはないです。コンプリートの脊損の場合、損傷を負ってしまった部位によって自力で可能な動作が決まってしまうとされています。 少数でも治る人がいれば、これらのクリニックでは『当院は脊損による歩行障害を治せますのでご相談下さい』と宣伝すると思います。でも、どこもその様に宣伝しません。。。

この事実ひとつをみても、いかに脊損の歩行再建が現代までのリハビリにとって大きな壁だったかがわかります。 


この論文の手法に関しても、Complete Spinal Cord Injuryの患者さんの歩行再建に完全に成功したという話ではありません。このあと、少しづつ書きますが、あくまでファーストステップです。でも、なかなかブレイクスルーがなかった分野なので、私は『偉大な一歩』だと思いました。 



今後は、脊損の歩行再建に関して再生医療かこういう手法のどちらが主流になっていくのか、それとも併用されたりするのか?硬膜外電気刺激のデバイスにAIが使われるようになったりするのかも知れません。


いずれにせよ、集中的なリハビリは必要と思われます。ですので、この分野のリハの需要はまだまだありそうです。


もしかしたら今世紀中に人類は、コンプリートの脊損を受傷しても再び歩けるようになるのかも知れません。もしかしたら私が生きているうちにそういう時代になるのかも。もっと言えば、私がリハ専門職として働いているうちに、脊損患者の歩行再建に関するリハを当たり前に提供する時代が来たりするのかも知れません。。。。。

我々は、凄い時代に生きてますね(;’∀’) 



長くなりましたので明日に続きます。 

興奮(?)しすぎて本題に入れませんでした(*_*;。。。 


今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 



次回へのリンク







自分と似たような考えを持った医療職の方が下記のキーワードで検索した際に、繋がりやすくなることを目的に下記のキーワードを書くことにしました。やや見苦しいですがご容赦下さい。 EBM、Evidence based medicine、EBPT、Evidence based physical therapy、根拠に基づくリハビリテーション、rehabilitation、リハビリテーション、理学療法、physical therapy、physiotherapy、統計、statistics、研究デザイン、study design、留学、study abroad、ロンドン、London、ユニヴァーシティー カレッジ ロンドン、University College Londn、UCL、ロンドン大学、University of London

Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

キャリアゴールは『日本を含む全アジア地域で、全てのリハビリ対象者が適切な価格でエビデンスベースドのリハビリにアクセスできる社会を実現する』ことです。 ゴール達成のために、勉強したことをシェアしたり、同じような活動をしている方とコミュニケーションをとることを目的にサイトを作ってみました。 ゴールやそこまでの道のりが少しでも被る方は、是非一緒に何かやりましょう。

0コメント

  • 1000 / 1000