低炭水化物食に関するエビデンス①

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


最近(?)流行しているダイエットと言いますか、食事に低炭水化物食があります。米などの主食やお菓子などからの砂糖や炭水化物の摂取を減らして、たんぱく質で置き換えるというものと思います。


ライザップなどが流行らせたスタイルかなと思います。

以前、ダイエットに関する記事を書いて、その中で『身もふたもない話ですが、摂取カロリーを減らして、消費カロリーを増やす以外にダイエット法はない』ということを書きました。


一方、低炭水化物食は割とカロリー量には寛容で、炭水化物の摂取を減らすことに重きを置いている印象です。


では、この食事方法は、科学的にみて、理に適ったものなのか?

それを調べた研究があります。


下記の研究が調べた内容は、『肥満成人(糖尿病ありandなし)に低炭水化物の食事スタイルを取り入れると、通常の食事スタイルと比較して減量効果、心血管リスクは改善するか?』です。

つまり、通常の食事と比較して、低炭水化物食は痩せるのか?ということですね((+_+))


 いくつかの論文を見たうえでの私の結論は、 

『糖尿病、腎臓病がないか、あっても病気がコントロールされた肥満成人が対象であれば、1年位ならやっても良い。しかし、結局は摂取カロリーを制限しないと効果はなさそう。糖質以外であれば好きなだけ食べていいわけではない。なお、長期にやると体に良くない』

です。 


ちなみに、各機関が表明している内容は・・・

①日本糖尿病学会:炭水化物は50~60%程度が望ましい(2013年)

 →つまり通常のバランスの食事です。日本糖尿病学会は低炭水化物食を推していません。。。

 

②アメリカ糖尿病学会:過体重の患者に2年までの短期間の低炭水化物、低脂肪、カロリー制限、地中海食が推奨される(2013年) 

→地中海食に関するデータは議論が続いているので、今後この記載は削除されるかもしれません(既に削除済であればすみません)


③Lancet :6ヵ月に限り安全であるようだ(2004年) *腎機能、血糖などの監視・コントロールは当然慎重に行う。 


個人的には、他よりも10年近く早く適切な結論に至ったLancetはさすがだなと思いました。

ちなみにLancetは医学系の雑誌のトップジャーナルの一つで、漫画雑誌で言えば少年マガジンか少年ジャンプです( ゚Д゚)


このシリーズで私が上記の結論に至る根拠となった文献を二編提示します。


文献①

雑誌情報: PLos One. AJul 9; 9(7):e100652. 2014 PMID 25007189 

 タイトル:Low carbohydrate versus isoenergetic balanced diets for reducing weight and cardiovascular risk: a systematic review and meta-analysis. 

 著者:Naude CE, Schoonees A, Senekal M,et al. 

 【Impact Factor】3.534(2013年) 


Plos Oneという雑誌は、オープンアクセスといって誰でも無料で読めます。このタイプの雑誌には査読がしっかりしてないものも多いため、信頼できる情報源かは議論のあるところです。しかしPlos Oneは、インパクトファクターもついています。また、この研究は、研究デザインもしっかりしているので、良しとしました。


読むのがめんどくさい方は、真ん中の辺りの太字で書かれた結果だけ読んでください。


ここから抄録の日本語訳です。

【Abstract日本語訳】 

背景

 炭水化物制限の減量食スタイルは、通常バランスの減量食スタイルと比較して減量にとってより効果的で、さらに、心血管疾患の予防という健康上の利点があると言われている。

 

方法と結果

 研究チームは、過体重または肥満成人を対象に、低炭水化物食と通常バランスの食事での減量効果を比較した。なお両群の摂取カロリーは同じに設定された。対象とした研究は、ランダム化比較試験(RCT)で12週以上のフォローアップがあったものとした。各研究の減量効果および心血管疾患と糖尿病のリスクをまとめた。食事に関する指標は、刊行されている主要栄養素への提言より導かれた。研究チームは、Medline、EMBASE、CENTRALを2014年5月19日に検索した。分析は、フォロー期間が3-6ヵ月と1-2年で層別化された。また、被験者の糖尿病有り無しでも分けられた。研究チームは食事のアドヒアランスとGRADEシステムを用いてエビデンスレベルを評価した。研究チームは、群間の平均の差を計算し、random-effectsメタアナリシスを実施した。19の研究が対象とされ、合計の症例数は3209だった。3研究が適切な盲検化がなされていた。 

今回のメタアナリシスの結果は、


・糖尿病を有さない被験者において減量効果に関して3-6ヵ月の期間では、差が無いか、あっても小さいことを示した。(平均的な差0.74㎏、95%信頼区間-1.49~0.01㎏、14研究、症例数=1745、中等度のエビデンスレベル)。


・1-2年のフォローアップでも同様であった(平均的な差0.48㎏、95%信頼区間-1.44~0.49㎏、7研究、症例数=1025、中等度のエビデンスレベル)。


・さらに血圧、LDL、HDL、総コレステロール、中性脂肪、空腹時血糖に関してフォローアップ期間が3-6ヵ月と1-2年の両方においては差が無いか、小さな差だった。


・糖尿病患者においても同様の傾向を示した。 



結論

 本レビューは、低炭水化物と通常のバランスの食事の間に短期間の減量効果は差が無いことを示している。体重過多および肥満成人において減量効果、心血管のリスクファクターの差はないか、あっても小さいものになるだろう。この結論は、対象者の糖尿病の有無に関わらず同様である。本レビューの結論は、最大2年間のフォローアップ、低炭水化物と通常のバランスの食事に無作為に割り付けられたRCTという条件下で示されたものである。 




私見

 この論文は、ランダム化比較試験(RCT)という質の高い研究を集めたシステマティックレビューです。なのでかなり信頼度は高いと思われます。この論文によると、摂取カロリーが同じなら、最大二年間低炭水化物ダイエットを行っても、通常の食事と比較して0.5 kg程度しか余分に減量効果がないとしています。しかも統計的にはこの小さな差すら、偶然によるもの(つまり低炭水化物ダイエットによる追加の減量効果はないか、最悪の場合、通常の食事と比較して減量効果はマイナスである可能性もある)と言っています( ;∀;)


2年間で約0.5 kgの追加の減量効果が、ダイエットをされている方にとって大きいものかどうかは議論の余地がありますね。また、2年間の長期にわたって、主食や甘いものを制限するというデメリットも考えて採用するか決める必要がありそうです。


長くなりましたので次回に続きます。次回は、より長期間低炭水化物ダイエットを続けた場合、健康状態はどうなるかを調べた研究を取り上げます。


 今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 


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