おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
臨床研究で良い結果が出ていないものの、長い間使われ続けている理論、治療法に関して『○○法は現代の科学では証明できない』という発言を聞くことがあります。
○○法の所には色々な理論が当てはまると思います。
私はこのフレーズは、「○○法に価値が乏しいことが簡単にわかるリトマス試験紙」の様なものだと考えています。
もちろん、現代の科学で全てがわかるわけではありません。しかし、現代の臨床試験は、現代科学ではメカニズムが証明できない治療法に関しても治療効果を証明できる程度には洗練されています。
タイトルのフレーズには医学研究に対する誤解というか典型的な誤りを含んでいて、この発言をする人は
『私は、医学に関する専門的なトレーニングを積んでいないか、トレーニングの経験はあっても身に付いていません』
と宣言しているのと同じであると思って良いです。
その理由は下記です。
① 臨床研究は、「○○法の真偽」に関しては調べていません
②『○○法を勉強したことがない人間が意見を言うのはおかしい』→治療成績のデータに関して話すなら、全くおかしくありません。
③ 個別化されたプログラムなので臨床研究にそぐわない→誤りです。個別化された治療法も臨床研究で効果を調べることができます
④ ○○法は動作の『質』を改善する。臨床研究には『質』を評価する術がないのだから、○○法は評価できない。→誤りです。質の評価も可能です。また、そもそも質を評価する術がないなら、○○法を支持する人はどうやって「質」を評価しているのかわからなくなってしまいます。
⑤ ○○法はアートなので、わかる人にわかって頂ければいいんです。→医学においてはそのような姿勢は許されません。
⑥ ○○法に関する研究は現在進行中なので、間もなくエビデンスが出ます。→多分嘘です。もし講師の先生がそのことを真剣に信じているならば、その先生も本部の人たちに騙されています。
理由の詳細に関しては複数回に分けて書いていきます。
もし講習会などでタイトルの様なフレーズを聞いたら『あ、この治療法はダメだな』と考えても差し支えないほどの地雷フレーズです。
これは、どんなに立派に見える人達が、どんなに長い期間取り組んできた治療法であっても、です。是非、お気を付けください。
今日は、①に関して書きます。
① 臨床研究は、○○法の真偽に関しては調べていません
リハビリの価値というか目的は、『日常生活動作能力(ADL)の向上を通じた生活の質(QOL)の向上』です。臨床研究によって調べているのは、『 ○○法を行うことで日常生活動作能力に変化があるか?』と『他の介入と比較して追加効果が認められるか?』であって、○○法の真偽は見ていません。
少しわかりにくいので、他の例を出します。例えば「気」の流れの様なものは、現在までいかなる精密機器を用いた実験でも見つかっていません。ですが、今後科学が発展することで証明される可能性も否定しません。 例えば鍼の様な「気」の流れに影響を与えて治療するという理論に関して、臨床研究は、そのメカニズムの真偽に関して何も言いません。ただ、『その治療法が患者の症状に本当に影響を与えたか?』のみにフォーカスしています。この効果がプラセボ効果といういわゆる『思い込み』による改善効果を上回らなければ、
①「気」というものは実際にはないか、
②効果はあっても鍼によってコントロールできないか、
③「気」の影響は考えられているほど人体に影響を与えないのではないか?
というような「仮説」は立ちますが、臨床研究によってその先の結論は出せません。
これと同じように、「○○法の真偽」は臨床研究の主たる標的ではないので、「現代科学には至らない点がまだまだある、従って、臨床研究の結果が悪くても、○○法は有効だ」というような議論の進め方はできません。
長くなりましたので次回に続きます。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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