こんばんは。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
しばらく中断していましたが、今日から再開します。
今日は世界で初めて行われた対象比較試験に関して書きます。
なぜ、こういった内容を書くのかと言うと、『エビデンスに基づく医療』に関しての歴史であったり、方法論を大まかにでも知ることは、患者さんが治療選択をするときに役立つのではないかと思うからです。
また、リハビリ専門職の方にとっても、『エビデンスに基づくリハビリ』に対しての誤解が解けるのではないかという期待もあります。
本題に入ります。 世界初の本格的な対象比較試験は壊血病という病気に関して行われました。
現代の先進国で生きる私たちは壊血病で亡くなる人はほぼいません。
ビタミンCの不足で生じるこの病気は、航海中に新鮮な野菜や果物を保存する技術がなかった18世紀の船乗り達にとって非常に恐ろしい病気でした。 当時は栄養学という学問自体がなかったので、なぜか船乗りだけが掛かる原因不明の病気だったようです。
その被害はとても深刻で、ジョージ・アンソンさんというイギリス海軍の提督が4年間かけて世界一周をした際は、海戦で死亡した海兵は4人だったのに対し、壊血病で亡くなった海兵は1000人以上にのぼったそうです。 この病気に対してスコットランド人医師ジェームス・リンドさんが同程度の症状の水兵に対して下記の様なものを通常の食事に加えて与えて、その症状の変化を観察したそうです。
(ジェームス・リンドさん Wikipediaより)
12名の壊血病の症状がでている水兵を2名ずつ6つのグループに分けた
① リンゴ果汁
② 硫酸塩のアルコール溶液
③ 酢
④ 海水
⑤ 薬用ペースト(ニンニク、カラシ、ラディッシュ、ミルらの樹液からなる)
⑥ オレンジとレモン
をそれぞれ通常の食事に加えて与えた。
その他、病気になっても通常の食事を続けた水兵もいた(コントロール群としての役割を果たした)
これらのもの以外の環境をなるべく同一にするというのが、ジェームス・リンドさんの画期的なアイディアです。 水兵たちは、船の中の同じ場所にベッド(ハンモック?)を移され、同じような食事やケアを受けたそうです。
その結果、レモンやオレンジなどの柑橘類がこの病気の治療に有効だということが分かりました。
6日間で柑橘類がなくなってしまいましたが、柑橘類を摂取していた水兵のみがほぼ完治したためです。
大切なポイントは、「同じ条件下で他の治療をした水兵と比較した」という点です。 このように比較をしないと、治療の効果なのか、自然治癒や治療に対する期待(プラセボ効果)などの影響なのかがわかりません。
例えば、整骨院などで「腰痛が治った!!」という『お客様の声』を宣伝しているところがありますが、このような比較がなければ、その整骨院での治療効果なのか、何か別の影響なのかがわかりません(基本的に腰痛は時間の経過とともに軽減しますし・・・)。
最後に後日談です。
壊血病はこれをもって解決とはいきませんでした。ジェームス・リンドさんは、保存・運搬がしやすいように、レモン果汁を沸騰・濃縮させた「ロブ」というジュースを作りました。その結果、果汁の中にあるビタミンCが壊れてしまい、効果がほぼなくなってしまったためです(ビタミンCは熱に弱いです)・・・・。
まだ科学者がビタミンCを発見する前のお話しです。
私は、このリンドさんの一歩は、医学にとって、とてつもなく大きな一歩であったと思いますが、少し切ない結果に終わってしまったようです。。。
この様に、「エビデンスに基づく医学」はその時代の最高の頭脳をもった人たちが長い期間試行錯誤しながら積み重ねてきたものです。その成果を享受できる私たちはとても幸せな世代です。上手く活用できるようになりたいですね。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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