腰痛に対する認知行動療法(CBT)に関してもらった質問

こんばんは。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


以前の記事に関して質問を頂きました。


大変興味深い質問だったことと、FcaeBookのコメント欄に書くと長大になりそうだったので、改めて記事を書くことにしました。 

頂いた質問は、 

『心理社会的要因が慢性的な腰痛に関与しているのはわかりますが、なぜそれらが肩や膝でなく腰なんですか?(文献があったら教えて欲しい)』

 というものでした。 確かに、「腰痛に対する認知行動療法」というコースや、セミナーなどはよくあるけど、「膝(肩)痛に関する認知行動療法」ってあまり聞きません。。。 


 私の答えとしては・・・ 

なぜ、他の部位ではなく腰に出ることが多いのか? →正確には私もよく分かりません<m(__)m>

『なぜストレスが溜まると他の消化器官ではなく、胃に潰瘍ができるのか?』と同じで、現在の私はそこに対しての明確な答えを持っていません。 


また、『実際に他の部位と比較して、腰に発生する心理社会的要因が関連した慢性疼痛は多いのか?』に関しても統計データを私は持っていません。 すみません。少し考えてみましたが、やっぱりわかりませんでした。 


ちなみに、むち打ちを含めた頸部の痛みに対しても認知行動療法は盛んです。脊柱というのは、柔軟性と固定性の両方の機能を求められますし、直立姿勢によって、常に重力というストレスにさらされている、大切にしないと壊れてしまうという『イメージ』があるために、心理社会的要因による疼痛が発生しやすいのかも知れません。 


ただ、このイメージは正確ではないです。人類の脊柱は進化の過程で、直立姿勢を送るために過不足ない形に進化しています(そうでなければ、淘汰されて人類は地球上に存在しなくなっているはずだからです)。


少し大げさな話になりました。私は安易に進化論をリハビリに持ち込むのは好きではありませんが、もしも進化論を正しく解釈するとこういう結論になります。 



直接的な答えになっていないと思いますが、いくつか答えられることはありました。 


まず、認知行動療法は慢性疼痛に対して用いられているので、肩や膝の慢性疼痛に対しても用いられているはずです。器質的な変化(骨折など)がない関節や四肢の痛みは、認知行動療法の良い適応だと思います。外傷後に、組織は治癒したにも関わらず、疼痛が非常に長引く患者は一定数いて、そういった患者さんに対する認知行動療法は盛んに行われています。  


では、なぜこのオックスフォード大学のコースしかり、腰痛に対して認知行動療法が強調されているように見えるのかは、 


1.単純に慢性腰痛患者が多くて、医療費や経済的損失(欠勤や失職など)といった社会的なインパクトが大きいことだと思います。骨折などの明らかな組織のダメージがない腰痛(=非特異性腰痛)に対して、現代の医学は決定的な解決策を見つけられていません。オピオイドという非常に強い鎮痛剤を使っても効果がない腰痛患者も存在し、薬や手術だけでは解決が難しいというのが一致した見解になっています。     

つまり、顧客が沢山いて、社会にインパクトがあり、決定的な解決策がないため、認知行動療法に関心を寄せる医療者が多いこと。  


2.現在までの腰痛治療の中で最も効果が期待できる腰痛治療であること。   

冷やす、温める、牽引する、マッサージする、鍼を使う、灸を使うなど色々な治療法が提唱されては消えていきます。いつの時代も腰痛の「ゴッドハンド」が現れては、いつの間にか消えます。なぜ消えていくかと言うと、有効性が証明できないためです。その中で認知行動療法は厳しい検証に耐え、現在も生き残っています。 


3.慢性腰痛は恐怖やそれに伴う疼痛回避行動がセットとして存在しやすいです。 

例えば、慢性腰痛患者さんは 

①腰は脆弱な組織だから、大切に扱わないと、将来的に痛みで歩けなくなったり、寝たきりになるかも知れない。   

  a.腰を捻ってはいけない   

  b.腰をまっすぐにしていなければいけない   

  c.理想的なS字を描くようなアライメントに保たなければいけない  


②ぎっくり腰などは腰の組織のダメージによるもので安静が必要 


③腰痛になってしまったら、重いものを持ってはいけない、激しい運動はしてはいけない 


④重いものを持ち上げる時に、腰に優しい持ち上げ方がある 


⑤腰痛を治すには、専門家が付きっきりになって治療しなければいけない 


⑥腰痛を治すためには手術が必要だ 


⑦コルセットを手放してはいけない 


・・・・・・・・・・・ 


挙げていくときりがありませんが、これらは全て科学的根拠によって否定されていることです。 


恐怖やそれに伴う活動量の低下は、慢性疼痛にとって悪影響を及ぼします。脳の機能低下であったり、疼痛に関連する部位の萎縮が生じたりという脳の形態変化も生じます。 一方、他の関節、例えば、膝関節や肩関節に関しては、痛みがあっても多くの人は、それが原因になって将来寝たきりになるんじゃないか?とは心配しないでしょうし、基本的には「長 い目で見れば痛みは落ち着いてくるはずだ」と楽観的に捉えて、変に固定したりせずに、出来る範囲で動かすはずです。


「今後は、以前と同じレベルでスポーツができないかもしれないな」とは思うかも知れませんが、そこまで悲観的な将来を予想しません。 ただ、なぜか腰だけは、同じ運動器なのに、「痛みは悪化することはあっても良くなっていくことはない」とか、「腰の組織にダメージが蓄積されないように固定しなければいけない(コルセット)」というのが常識のようになっています。 


これらの認知を変え、行動を変えるという意味で認知行動療法が期待されているのだと思います。 なぜ、心理社会的要因による慢性痛が腰に出るのか?に関しては、私にはわからないことが多いです。

脊柱は、誤ったイメージのために、一般の方の恐怖を引き起こすためかもしれません。


こういったタイプの腰痛が社会的に問題になっていますので、そこに注目し、解決するために世界中の多くの専門家が努力しています。 




 今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 












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