こんばんは。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
イギリスで勉強したことを共有したくてこのテーマで記事を書こうと考えました。
前々回から書き始めましたが、なかなか本題に入れません。。。
欧米諸国では理学療法士の開業権がある(=理学療士が独自の判断で理学療法を提供できる)ということを書いてきました。
欧米で認められている理学療法士の開業が、なぜ、日本では認めないのか?
この理由の一つが教育課程における『診断』に関する科目の欠如です。
私達も、怪我や病気のある患者さんが『いわゆる正常な動き』が出来ない原因を推測する訓練は受けています(多分に経験則に頼っているなど、問題点はありますが、主旨から外れるのでここでは書きません)。
ただ、ここで私の言う『診断』とはもう少し広い、『そもそも、この患者さんは理学療法の適応なのか?』を正確に見極めるスキルのことです。
このスキルがない状態で理学療法士に開業権を与えるとどのようなことが危惧されるか?
以前、マッサージと阿藤快さんに関する記事を書きました。
当時の阿藤快さんには『腰痛の影に隠れた重篤な疾患』を疑うべき様々な所見がありました。
これが不幸な事故なのか、医療類似サービスを提供するスタッフの見落としによる『防げた突然死』なのかは公開されている情報だけからは分かりません。
この様な事態は、対岸の火事ではなく、理学療法士が経営する治療院でも起こり得ます。むしろ、これだけ理学療法士の治療院が増えている現状では、表に出ないだけで既に発生していると考える方が自然だと思います。
施術中に有害事象が発生するわけではないので、お客さん側が因果関係を疑うことも基本的にありませんし、現状では重篤な疾患を見落としたことで訴えられた、医師以外の医療職の話は寡聞にして聞いたことがありません。そもそも理学療法士自身も、自分の見落としに気付かず、「あのお客さん亡くなったんだ。若かったのに残念だ。このお客さんが毎週予約してくれていた枠が空いてしまった。またチラシをまいて新しいお客さんを探さないと」 と思うくらいかも知れません。
ただ、責任のある医療職においては、予見できる重篤な疾患を見落とすことは罪と考えられています。リンクは千葉大学病院で肺がんを見落としていたために、患者の予後に影響を与えたとして千葉大学が謝罪したものです。
理学療法士、カイロプラクター、整体師、鍼灸師が世間から『責任のある医療職』と見なされているかは正直な所よく分かりません。
ただ、「この患者さんは理学療法の適応か?」を正確に見極める『診断スキル』がない現状での理学療法士の開業は、本人たちも無自覚のうちに、
「間接的に患者さんを殺してしまっている」
とは言えそうです。
『現状で理学療法士の開業を認めてしまうと、国民に不利益がある』と医療制度を設計する人々が考えているため、日本では理学療法士の開業が認められていないのだと思います。
これは制度の良い悪いではなく、『社会が理学療法士に期待することの違い』です。社会が違えば、名前は同じ職種であっても権限や責任が違うのは自然なことなので、『欧米の理学療法士と違って開業権がないため、日本の理学療法は遅れている』というのは少し極端な主張ではあると思います。
もしも、現状で病院以外の施設(整体院など)で、正確にお客さんに説明する場合、下記の様な形での注意喚起が必要になると思います。
『腰や背中の痛みは、稀にではありますが、致死的な疾患によって生じている可能性があります。それらの疾患を疑う所見がある場合は、一度、病院に受診して、しっかりと全身を検査した上で、マッサージを開始してください。マッサージ師(整体師、カイロプラクター、理学療法士)には、腰や背中の筋肉以外に痛みの原因があった場合、それを発見するスキルはありません。また、一見すると筋肉に痛みがあるように見える場合も、それが本当の原因かどうかは正確にはわかりません。2、3か月マッサージ・施術を受けても症状に改善がみられない場合は、再度病院を受診して頂くことをお勧め致します。』
この様な説明が、真実ではありますし、誠実でもあります。ただ、この様な説明をした場合と
体を触ったり、姿勢や痛みの出る動作や歩きなどを見て、自信満々に
『この筋肉の癒着が○○さんの腰痛の原因です。普段の姿勢と動作の癖によって、この部位に負担が集中しています。当院オリジナルの施術によって改善効果が期待できます。』
という場合では、患者さんから得られる信頼が違います。
マーケティングという観点からすると、リピーターを増やすためにどうしても後者の説明になっていってしまうと思います。
『医療「類似」サービスなので、最終的な判断は顧客自身が責任を持つ』という言い訳も許されますし。。。( ゚Д゚)
『診断をする技術は、リハビリ専門職にも必要だ』ということを書きたかったのですが、また少し話が脇に逸れました。
長くなりましたので次回に続きます。
そのうち、必ず『リハビリ職種に必要な症候診断』の話に入りますので、ご容赦ください<m(__)m>
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
次回へのリンクです。
自分と似たような考えを持った医療職の方が下記のキーワードで検索した際に、繋がりやすくなることを目的に下記のキーワードを書くことにしました。やや見苦しいですがご容赦下さい。 EBM、Evidence based medicine、EBPT、Evidence based physical therapy、根拠に基づくリハビリテーション、rehabilitation、リハビリテーション、理学療法、physical therapy、physiotherapy、統計、statistics、研究デザイン、study design、留学、study abroad、ロンドン、London、ユニヴァーシティー カレッジ ロンドン、University College Londn、UCL、ロンドン大学、University of London、 腰痛、lowback pain
0コメント