University College London(UCL)留学記:ロンドンの観光地で詐欺にあった話④→行動経済の話

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


数回に渡って、ロンドンの観光地で『ギャンブル詐欺』にあった話を書いています。 前回の最後に少し「行動経済学」という単語が出てきました。 


 ギャンブル詐欺のグループは、理論としてこういったことを知っているかはさておき、非常に合理的に詐欺行為を組み立てています。合理的というのは、成功率が最大になる方法という意味です。 


具体的には、カモが「早い思考」を使わざる得ない状況に追い込み、不合理な行動をとらせてお金を取っていきます。 


 以下は、『Fast & Slow』という本に書いてある内容を、私なりにまとめたものです。



私達は、直感的に物事を素早く判断する「早い思考」と、論理的に確率を見積もるなどして判断する「遅い思考」という二つの思考システムを無意識に使い分けて生活しています。 


 私達は進化の過程で、気を抜いて生活していると「早い思考」を優位に使って物事を判断するようにできています。 なぜかというと、人間の脳は、石器時代から大きな変化をしていないためと考えられています。 もう少し具体的に言うと、この頃の人類は、生活圏が生命に関する脅威と隣接していました。 例えば、危険な動物(猛獣や毒蛇など)です。  


このような環境では、『早い思考』が生存には有利です。もし狩りの途中で、すぐ近くの草むらが、ガサゴソいいだしたら、危険な動物と考えてその場から一目散に逃げるのが正解です。この行動は『早い思考』によるものです。 一方、『遅い思考』をする人は、「草むらで動いたのは何だろう?」と考えて、草むらから逃げずに、中を探してみるかもしれません。そこで危険な生物に遭ってしまったら、命を落としてしまいます。 


この様な形で、常に『遅い思考』を使って物事を考える人達は子孫を残すことが出来ず、淘汰されてきたと考えられています。 私達は『早い思考』を優位に使って生きていた人たちの子孫なのです。 



私達は、この様にできているので、一定の条件が揃うと簡単に騙されてしまいます。 (どのような条件で人は騙されたり不合理に振る舞いやすいか、どうすればそれを回避できるか?というのを明らかにするのが行動経済学の目的の一つです。) 


ギャンブル詐欺グループにあった時に最も合理的な行動は『無視して通り過ぎること』です。 しかし、詐欺グループは、考える時間を奪って、『早い思考』を使わせるように誘導したりして、カモを詐欺に参加させます。 


『早い思考』を使わせられる状態に陥ると、どんなに賢い人も騙されてしまいます(この概念を作ったノーベル賞を受賞した経済学者達も簡単な心理トリックに騙されています)。 私は、別に賢い人間ではありませんが、上記の様な知識があっても、サクッと騙されてしまいました。。。  



ここから、リハビリの話に行きます( ゚Д゚)。 


このように私たちは、どんなに『自分は違う』と考えても、簡単に騙されてしまいます。ですので、リハビリも「私たちは勘違いしやすい」という前提のもと組み立てられる必要があると思います。 実際に近代医学は統計や研究デザインを適切に使うことで、「勘違いしやすい」という私たちの欠点を補って大きな進化を遂げています。  


例えば『確証バイアス』というモノがあります。簡単に言うと『自分が一度信じてしまったことに関しては、自分に都合の良い情報ばかりを集めてしまう』というものです。 また、人は、ランダムなパターンの中にも、因果関係を見出してしまう思考の癖があります。 


偉い先生が、患者さんに『昔から効果があるとされている手技』を使ったところ、痛みが軽くなったり、動きが改善したりします。私達は、因果関係を見出してしまう思考の癖があるので、「この手技の効果に違いない」と考えてしまいがちです。 そして、一旦信じてしまうと、その手技を支持するような情報しか頭に入って来なくなり、ドンドンその手技を過信していってしまいます。


仮にその手技に本当は効果がなくても、この思考の循環から抜け出すのは非常に難しいです。 


『もし、本当は効果がなくても、患者さんが良くなるなら何でもいいんじゃないか?』という風に語るリハ専門職の方がいます。 基本的に患者さんの時間と財産は有限なので、本当は効果がないリハビリをしている間に患者さんは、効果のあるリハビリを受けるためのお金を失い、機会を逸しているかも知れません。 



こういった事態を防ぐためには、確実な方法があるわけではなく、定期的に『自分のやっていることは本当に正しいのか?』と振り返らなくてはいけません。 また、愕然と振り返ってただけでは『確証バイアス』によって、自分の考えを強めるだけで終わってしまいます。 そこで『科学的な観点で振り返る』と予め決めておく必要があります。  


自分の行っているリハビリは

・患者さんを使った臨床研究で証明された効果なのか? 

・それともただ、偉い先生が自信満々に説明したから信じているだけなのか? 

・目の前でデモンストレーションが行われて、患者さんが良くなったから信じているのか?  

・自分が仮説を立てて患者さんに試しに使ってみた所、効果的だと感じただけではないのか?


患者さんが良くなることと、本当に効果があるのかは分けて考える必要がありますという記事を以前書きました。  


自分が何によって、そのリハビリを信じているのかを振り返ることは、有効かもしれません。 


長々と書いてきて、やはり(?)いつものオチに落ち着いてしまいました。。。  



今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 







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